レイ・ブラッドベリの季節
こんにちは。翻訳事業部/コミュニケーション・デザイン事業部の久戸瀬です。
10月に入り、事務所のある表参道界隈ではハロウィーンのオーナメントでおしゃれに飾り付けをしたお店をたくさん見かけるようになりました。
この時期、私には読みたくなる本があります。中学生の頃に図書館で見つけた、アメリカのSF小説家レイ・ブラッドベリ(1920‒2012)著「ハロウィーンがやってきた(原題The Halloween Tree)」です。当時ハロウィーンは日本ではあまり馴染みのない行事でしたが、映画のワンシーンや夕方のニュース映像などでなんとなく見聞きしていたので、少し興味が湧いてこの本を手に取ってみたんだと思います。
ストーリーは、8人の少年達が時空を超えた冒険を通してハロウィーン(万霊節)の意味を知る、というものです。それほど本好きではなかった自分が、読み進めていくうちに作品の中にどんどん引き込まれていったことを今でも覚えています。また、この本は表紙の絵や挿絵も幻想的でかっこいいのでより印象に残っていました。
現在私が持っているペーパーバック版は古びて紙が黄昏色に染まり、その効果が図らずも絵の雰囲気を更に味わい深いものにしています。大げさですが、90年代初頭の10月にブラッドベリの不思議な世界に触れ、今でも魅了され続けていると思うと、あのとき少し薄暗い図書館の片隅は異世界へと繋がっているワームホールの役割をしていたのかな、などと妄想してしまいます。
個人的に最近はインターネットばかり見ていて、残念ながら読書をする機会がめっきり減ってしまいました。電子書籍などが普及したことも相まって、紙製の本自体もう必要ないのではないか、と考えることもありますが、もしそれが本当に現実となってしまったらと思うと少し切ないです。生前ブラッドベリはあるインタビューで、電子書籍は本の匂いがしないから好きではない、と答えています。ページをパラパラとめくり、紙の風合いを確かめたり時を経た本の甘い匂いを嗜好品のように楽しんでいるとき、著者のそんな言葉が自然と思い出されます。